「5人分の仕事を3人で回す「ムダ時間」削減術」

僕は、本書に生産性の”向上”が期待できるような、

面白い術が書かれているのではないかと期待していた。


ありきたりなライフハック系でも構わない、

気づかなかったハックに出会うのは楽しいから。


しかし本書には、残念ながら当たり前のことしか書いていなかった。


仕事における「チーム」、「個人」において、

「パフォーマンス(能率×稼働率)を最大限にする」

これにつきる。

本書には、そのための方法論が書かれている。

「”だらだら時間”と”ぼーっと時間”をなくす」

ということが、ムダ時間を削減するということと言っている。


一番の衝撃は、世の中にこういう本が必要だと言うことだ。

世の中の働く人が、この当然のスキルを身についたとして、

実は、世の中の仕事の量(=稼働時間)は、

半分くらいなのではないかという危機感すら感じる。

5人分の仕事を3人で回す「ムダ時間」削減術

西田 順生

中経出版

(2010-11-17)

ISBN: 9784806138822


総評はひとまずこの辺にして、

本書の目次どおりに、ポイントを僕なりの解釈で解説していく。

第1章 手際の良いコックさん、どんくさいコックさん

第2章 “だらだら時間”と”ぼーっと時間”

第3章 “だらだら時間”のあぶり出し方

第4章 “ぼーっと時間”のあぶり出し方

第5章 130円前に考案された「それ」の決め方

第6章 ムダ時間の「割合」に注目せよ

第7章 まずは能率100%を目指せ

第8章 能率を130%にする技術

第9章 能率を200%まで引き上げる技術

第10章 稼働率を99%にする技術

生産性とは

生産性が高いとは、”短時間で必要なインプットを集め”、

”短時間で求められる品質のアウトプットをすること”である。


それは書類であっても、料理であっても同じである。

必要なものをそろえて、目的のものを、相手が満足する質の作っていく。


時間は短ければ短いほど良い。

求められれば、さらに生産ができる可能性が出てくる。

また、1人では限界がある仕事をチームで補完できるようになる。


チームで仕事をするのは、生産性が悪い人を補完するのではない。

1人より2人の方が、全体の生産性が向上するからである。


本書で言っている、“だらだら時間”と”ぼーっと時間” など言語道断である。

P.37

”だらだら時間”とは、「基準となる時間に対してかかりすぎた時間」

”ぼーっと時間”とは、「稼ぐ働きをしていなかった時間」


こんな時間あってはならないが、そんな時間はないものとして、評価は行われる。

ムダにしている側(社員)も、ムダにされている側(会社)も、

”仕事の機会”を失っていることに気づいていないから、知らないままスルーできてしまうのだ。


残業を時間精算できる仕組みは、ホワイトカラーの視点で見ると精神的にも複雑な仕組みである。

多くの企業で、同じ会社でも役職で給料計算が違ったりすることで、

仕事のスタンスに差異が出てしまい、評価の場面などでも理解が遠のくのである。

生産性を記録する、分析する

本書では、生産性を記録する手段として、日報を挙げている。

この日報には、以下のの記録をすることが必須であると考える。

これは僕が実際に実施してきたことであり、実施させているつもりの方法である。


・実行タスクの一覧(=締め切り)

・実行タスクの実施予定時間

・実行タスクの実施実績時間

・差分分析


僕の仕事は、いわゆる「WBS」「工数」ありきの仕事であるので、

時間生産性の視点の必要性に気づき、実戦できていると考えても良いだろう。


WBS(Work Breakdown Structure)とは、

レベル感は業界や企業に違いはあると思うが、

簡単に説明すると、チームメンバのタスクを

・成果物レベル

・実行アクションレベル

・目安2日以内(16時間)で完了するレベル

に分割し、スケジュールをリアルタイムに管理する仕組みである。


タスクにかける稼働時間は、

本書でいうところの「基準となる時間」を経験や予測から設定し、事前に計画する。

計画との差分は、「タスク進行上の課題」として管理される。

タスク担当者およびマネジメントで、

・スケジュールが誤っていたのかの分析

・担当者のスキルの実行内容の分析

・対策を立案する

を行う。


WBS立案の際には、品質、納期、コスト(いわゆるQCD)が確定している状態で行われるので、

品質を担保するたえの生産性は見積もりコストに従うことになり、納期を守るように計画される。

よって計画より稼働してしまう、つまり残業をすれば、

それだけコストがかさむことになり、利益を減らすことになる。


QCDは本書では、というか経営工学では「需要の3要素」と呼んでいる。

P.112

(1) よりよい品質の製品を (Quality)

(2) 納期通りに (Delivery)

(3) より安く提供して欲しい (Cost)


また本書では、この3つのなかで一番優先すべきことは、「品質」としている。


何かしらの原因で品質に問題があるようなら顧客対して、

「品質を担保ために、納期を調整する」

ことが、責任を持つということである。


原因が受注側にあるのであれば、納期の調整にかかるコストは受注側が持つ。

逆に発注側に問題があるのであれば、追加費用の調整となる。

発注側・受注側は、QCDを明確にすることで初めて、Win-Winの関係を築くことができる。

最初の「日報」に戻ると、僕が考える日報の目的として、

担当レベルが生産性の分析を行いマネジメントを円滑に行うこと、さらには、

その担当はいずれWBSを管理する、チームの生産性の責任を取る立場に

”自然となる必要がある”からだ。

組織が拡大していくなかで、担当と責任者に本来、

”ステップアップ”などという概念は必要ないと考える。


本書のようなテーマの本が流通しているという事実を知ってから、

僕はある意味、生き方そのものに柔軟性を持ってしまっていて、

偶然それなりに上手くやれる恵まれた場所にいるのかもしれないとも考えるが、

それは逆に、自分なりの生き方、過ごし方の結果だとも思う。

同じ会社のほとんどの人間は、上記のようなことを「やるべき仕事」ではなく、

「面倒」と思っているのだろうから、理解できない根本的な違いがあるということだ。


また、個人的なこともライフログとして記録するようになり(過去の記事参照)、

生産性を記録し分析する考え方は、人生全体に適用できることだと、僕は確信することができる。


稼働率、能率を向上させる

こちらは本書からのエッセンスのみ。


稼働率の向上は、僕が上記で語ったとおりであるが、作業の細分化(WBS)である。

管理できるレベルで、タスクの単位をできるだけ小さくして、稼働時間を分析する。

さぼれない、遅れたら遅れたことを分析して報告しなければならない状態にする。

厳しいかもしれないが、最初から当たり前なら、まったく苦にならないはずである。


また担当者は、何が何でも守ることを考える。

先人の知恵を借りる、盗む、分からなければ聞く、聞くタイミングを図る、人にやらせる、

あらゆる手を尽くすようにさせる。経験がないから生産性が悪いとは言わせない。


チーム、部署での稼働率の向上ということでは、

スキルマップの作成による能率管理を行うことで、稼働率はある程度想定可能となる。

不得意に分野のスキルを向上させたければ、多少稼働率は落ちてもやってもらうことで、

将来の投資を行うなど、計画的に実施が可能となる。

単発の短納期の仕事であれば、得意な人が高い稼働率で完了させた方が良いかもしれない。

余談であるが、僕のブログの生産性は、

最初の1時間は3000字程度である。そして2時間で4000字。3時間で5000字。

なぜ時間を追うごとに、生産性が下がるかというと、

言いたいことは最初の1時間で書いてしまうからだ。

あとは調整で、追記、削除などを繰り返すため、

長めのエントリーで3時間程度かけ、約10000文字になり、公開に至ることが多い。


この3時間も、平日は朝30分~1時間程度しかできないので、

長くなるもので、数日で1エントリーとなる。

逆にこれ以上かかるエントリーは、もしくは、

1時間ずつでもエントリーを分割した方が良いとも考えている。

能率を向上させる工夫としては、下記のポイントが挙げられている。


「過剰品質のムダ」

顧客と、品質の確定を行った上で作業を行い、求められている品質のものを作ること

上司も担当から見れば、成果物を納品する先=顧客である

「つくりすぎのムダ」

だらだら余計なことをしない

「動作のムダ」

できるだけ小さな身体部位を使う

両手で仕事をする

両手を左右対称に動かす

考え込まない

「移動のムダ」

移動回数と距離を削減すること。

「ちょこ待ちのムダ」

待ち時間にできることを決めておく。


さらなる能率の向上の秘策として、「改善の4原則:ECRS」という考え方が挙げられている。


「E(Eliminate):排除」

本来やらなくて良いことをやっていないか?なくすことはできないか?

「C(Combine):結合」

前後の作業を組み合わせられないか?

「R(Rearrange):交換」

人や作業工程の入れ替えはできないか?代替できないか?

「S(Simplify):簡素化」

作業をもっと簡単にできないか?


最後に、本書がいわんとしていることは、

稼働を仕事量ではなく、時間で定量化し、分析することで、

必然的にムダを削減することができるということだ。


これは仕事の基本である。

また人生において、やりたいことをやって生きていくためのコツでもある。

もし今までこういったことを考えたことがないのであれば、

まず、どうしてもやらないといけない仕事の中から始めてみてはどうだろう。


きっと仕事より、自分全体に適用したくなり、

仕事はその一部という位置づけに変わっていくのではないかと思う。

僕はこう思うことで、孤立したような状態になるのではなく、

日本全体の仕事や生活の考え方が、もっと効率的になって欲しいと思っている。


|新訳|科学的管理法

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