「これからの思考の教科書 ~論理、直感、統合ー現場に必要な3つの考え方~」(酒井 穣)

思考とは、常に人がしているものである。

他人がどう思考しているかは、わからない。

自分と同じように思考する人など、いないと思う。


特にビジネスの場においては、

「インプット」と「アウトプット」を正確に捉えることで、

誰が何をやっても同じ品質のものができる仕組みを考える。


そこに思考など、必要ではない。

思考しないようにしていくことが、生産性の向上に繋がる。

そして最も効率的なのは、人間がやらないようになることだ。


また全く逆に、他社が思いつかないような、オリジナルな結果を出すことで、利益を得ようとする。

それは新しい必要はない、もはや新しいものなどない。


本書を手に取ったのは、論理思考だけではない、水平思考、統合思考について語られているかだである。

これからの思考の教科書 ~論理、直感、統合ー現場に必要な3つの考え方~

酒井 穣

ビジネス社

(2010-09-28)

ISBN: 9784828415901

本書の目次は以下の通りです。

はじめに

第一部 ロジカル・シンキング(垂直思考)

1 説得力を高めるためのロジカル・シンキング

2 問題解決力を高めるためのロジカル・シンキング

3 上手に会話するためのロジカル・シンキング

第二部 ラテカル・シンキング(水平思考)

1 ラテカル・シンキングを支える3つの発想法

2 ラテカル・シンキングを刺激する3つのツール

3 ラテカル・シンキングの考察

第三部 インテグレーション・シンキング(統合思考)

1 記号としての言葉、象徴としての言葉

2 考えることは、どういうことか

3 サバイバル・シンキング(生存思考)

4 インテグレーション・シンキングとは何か

5 インテグレーション・シンキングに関する考察

おわりに

ロジカル・シンキング(垂直思考)

論理的に考える、というのは、今まで多く言われてきた。

論理的な説明は、わかりやすい。説得力がある。

とかくビジネスにおいては、必須スキルといわれている。


なぜそうなのかと言われると、この本の冒頭「はじめに」に書かれている。

P.4

ロジカル・シンキングとは、極端に言えば、「同じ事実が与えられれば、(ほとんど何も考えなくても)、同じ結論を導くことができるスキル」のことです。

仕事は、極端に言えば、答えが分かっていることしか行わない。

もしくは、答えを仮定して進めていくものだ。

この場合の答えとは、仕事にとっての利益のことである。


なので、仕事の会話、打ち合わせの結論は、ある意味では決まっていると言っても良い。

その答えを共有する。そうだよね、という確認をする場となる。

しかし実際はそうではない。

結論を見ても分からない人、考えられない人、役割でない人への説明会のようなものになる。


問題解決


問題解決の基本は、「困難は分割せよ」である。


アリストテレスによれば、第一の原因・第一の原理を知って、それの構成要素にまで到達すること。

P.50

ツリー構造を意識して、トップダウンでものごとを分割していくという方法は、特に問題解決のための具体的なアクションを探す作業において威力を発揮します。


仕事での「作業」における課題というのは、

トップダウンで、課題を分割していくと、次のアクションが浮き彫りになる。

P.50

逆にボトムアップでものごとを統合していく方法は、バラバラに見える問題に共通する根本原因を探るときに威力を発揮します。


こちらは、マネジメントレベルで行うべき、課題分析の手法になるだろう。


しばしば、課題の棚卸しをする際に、作業者とマネジメント層で、視点が異なる。

作業者は、目の前の困ったことに目が行っていて、

マネジメントはなぜこの問題が起こるのかの原因を探ろうとしているからである。


マネジメントは、作業者が困っていたら、トップダウンでの課題の細分化=作業化を指示し、

同じような問題が他にないかを、ボトムアップで分析することが必要となる。


また、特に企業戦略レベルでのトップダウン(ツリー構造)では、

網羅的にかつ細分化した項目にタブりや重なる部分がない(=MECE)状態にしていく必要がある。

同じようなことをやる部門があっても、その多くはムダになってしまうということである。


フレームワーク

問題解決をする上で難しいことの1つは、網羅性の確保である。

なぜなら、1人の人間の経験、知識で抽出できるものなど、たかがしれているからだ。

経験していたとしても、それがそのとき出てくるかどうかは、不安定である。


そこで本書では、3つの手法があげられている。

P.54

基本書の目次を参照する

フレームワークを活用する

1人で考えない

1つめの「基本書の目次を参照する」は、読書をせよということである。

時間がなければ、多くの本の目次だけでも参照して、網羅性の抜けを検知する。

目次だけであれば、インターネットに公式に公開されていることが多いので、簡単である。


フレームワークの活用は、実はこれも知らなければまずは読書をしなければならないことであるが、

フレームワークを知っていると、考え方に困らなくなる。

論理思考は「同じインプットから、同じアウトプットを出す」ことであるから、

思考をフレームワーク化し、効率を高めることができる。

コンピュータにはできない、人間的な思考の手法として、フレームワークは存在すると思う。


書籍として僕が分かりやすいなと思ったのは、『勝間和代のビジネス頭を創る7つのフレームワーク力 ビジネス思考法の基本と実践』です。

当たり前のことに見えて、実戦することはなかなか難しいと思う。

しかし、「知っていることが大事なのだ」と思うようになった書籍です。


ラテカル・シンキング(水平思考)

本書では、ラテカル・シンキングの根幹をなす3つの手法を紹介している。


1つは、アブダクション(推論法)

2つめは、シネクティクス法(類推法)

3つめは、TRIZ(テゥリーズ)


アブダクション」とは、科学的結論を示すための手法である。

P.86

驚くべき事実Cが観察された。

しかし、もし説明仮説Hが真であれば、Cは当然の結果であろう。

よって、説明仮説Hが真であるべきと考えるべき理由がある。

こう書かれると簡単なように思うが、無から事象を生み出すということは、とても難しい。

本書でも下記のように書いている。

P.87

アブダクションの推論には2つの大きな壁があります。

1つめの壁は、驚くべき事実を見つめるための「十分な知識」です。

(中略)

もう一つの壁は、説明仮説Hを立てるときの「ひらめき」です。

このように、人間の性質、個人の資質のようなものに行き着いてしまう。


そこで、2つめの「シネクティクス法(類推法)」が出てくる。

僕も読んだ本で、『アイデアのつくり方』が本書でも紹介されています。

アイディアとは、既存の要素の新しい組み合わせにすぎない

ということを指摘しています。


この組み合わせを探す類推法が、このシネクティクス法である。

そしてシネクティクス法を進めていく上で、押さえておくべき3つの形式がある。

P.91

直接類推法

主観類推法

象徴類推法

直接類推法とは、似たものをテーマに見つけていくもので、

あるテーマの商品が売れると、似たものが並ぶようになっていくのは、

この手法によるものだと思う。


主観類推法とは、擬人的に、演劇的なアプローチで、自分がテーマの対象になりきる手法である。

他者になりきる、他社になりきる、商品になりきることで、

”自分(自社)にとっての”新しいテーマを考える。


象徴類推法とは、対象となるテーマを、言葉=知識をフル活用して発送を広げる手法である。

10の知識がある人と、00の知識がある人のシネティクス力の差は10倍ではなく、

組み合わせで考えれば、100倍以上も違うということになる。


ラテカル・シンキングは、知識量が基本となる。

人間が知識を得るには、読書をするしかない。

人から聞く方法もあるが、それでも聞きっぱなしでは無意味であることが分かれば、

最終的には読書にいきつくのではないかと思う。

続いて3つめの「TRIZ(テゥリーズ)」、その心は以下のとおりである。

P.96

問題解決のパターンを定式化すれば、多くの問題をより効率的に解決できる

TRIZとはこの信念に基づいた研究であり、その成果として、

40種類の発明原理と76種類の標準解が明らかになっているという。(現在も継続している)


その中のトップ8が本書で紹介されています。

僕が1行程度にまとめたもので以下に8つの原理を紹介します。


原理1:分割

ロジカル・シンキングの分割、をさらに分割し、交換可能性まで考える。

原理2:先取り作用

想定したプロセスをあえて崩し、先のプロセスを前に持ってくるなど配置を見直す。

原理3:逆転の発想

言葉のままですが、思考だけでなく、視覚、動作においても、逆を意識する。

原理4:動きを取り込む

動くわけないものにも動きを取り入れてみる。

原理5:周期的作業

連続しているものを発見し、その効用を考える。

原理6:ピンチをチャンスに

有害なものを有益に使う方法などを考える。

原理7:セルフサービス

自己組織化、システム自体の機能を考える。

原理8:パラメータの変更

物理的な状態、柔軟性、周囲の環境を変化させてみる。

ラテカル・シンキングにおける「ひらめき」については、本書で茂木健一郎の『a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106101629/cue-22/ref=nosim/" name="amazletlink" target="_blank">ひらめき脳 (新潮新書)』を紹介しているので、読んでみたいと思う。

インテグレーション・シンキング(統合思考)

インテグレーション・シンキングとは、

P.141

インテグレーティブ・シンキングのエッセンスは、対立する2つのアイディアを同時に検討する力であり、2つのアイディアのうち一方をすんなりと選んだりはせず、2つの対立するアイディアが持つポイントを同時に受け入れるような、より優れた第3のアイディアを生み出すというもの


インテグレーション・シンキングは、

ロジカル・シンキングとラテカル・シンキングを超えた「考え方」であり、

求めるものは「最適解」である。


その最適解は様々であり、場面場面で、また個人、企業においても、違ったものになるだろう。

しかしそれでは、ロジカルでもラテカルでもないじゃないか、とも思う。(そのとおりなのだが)


インテグレーション・シンキングとして本書で語られることの1つは、「学びのプロセス」である。


気づき:ラテカル(情報収集、直感)

言語化:ロジカル(暗黙知から形式知

関連づけ:ラテカル(言語化から飛躍)

再定義:ロジカル(他の知識との共通点、新しいカテゴリの定義)

このサイクルで「学び」は展開していくことが、

ロジカルとラテカルの統合(インテグレーション)と言える。


インテグレーション・シンキングとして、もう1点「企業経営」がある。


経営の現状

↓ 経営戦略

企業ビジョン(インテグレーティブ)

↓ 因果関係

人材ビジョン(ロジカル+ラテカル)

↑ 人材戦略

人材の現状(ロジカル+ラテカル)

↓ 因果関係

経営の現状


このサイクルにおいて、企業経営は考えることができる。

因果関係を考えるには、どうしてもラテカルが必要になる。

その結果としてビジョンが確立された以降は、ロジカルに考える必要がある。


またインテグレーション・シンキングは、

言葉にならない五感が相互作用する、つまり人間らしい思考であると指摘している。

最後に人間的な思考で結論づけられる本書では、

ロジカル、ラテカルという思考を超越することを求めているのだと思う。

ロジカル・ラテカルが必要な場面を見極め、必要な場面では確実に使っていくことを前提にして、

その思考を刺激する何かを捉え、柔軟に思考を巡らせることが、

インテグレーティブな思考法であると、僕は考えている。

「周りの状況を考慮して、感情を考慮した、でも利益は守れる、最適解を話し合いましょう。」

という、抽象的で、かつ、そういう思考がない人には絶対にできないことがあって、

僕も含めて、こういう場でまともに居られる人というのは、どういう思考なのかが分かった気がする。


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