オークションにおいて買い手は弱い立場である。

 やる時期は集中することが多いが、長年オークションをやってきた。引っ越しを考え始めたこの1ヶ月も、5000円以上で売れそうなものを中心に出品し、それなりに売れている。5000円以上というのは、利益と手間(面倒くささ)の閾値である。
 ぼくはオークションにおいて買う側より売る側の方が多い。自分が持っている物に値付けをして売り、売る相手は一見さんの顧客となる。この顧客を売り手の立場でみたとき、注目すべきは、その顧客の出品歴だと思っている。オークションにおいて売る立場をどれだけ経験しているかで、買う立場での態度が大きく異なる。あくまで傾向としてだが、買うばかりの人は、とかく面倒くさい。
 今まさにそんな取引をしているから書いているというのもあるけれど、お金を払う立場を主張する顧客はいい迷惑である。客観的に信用のないネットでの商取引において、金銭の移動なしに物は移動しないというのが原則だろう。このことを分かっていないのか「私は過去の実績から信用できる人間だから現金が移動する前に商品を発送して欲しい」という、あきらかに売り手に不利な交渉をしてくる顧客に出会ってしまった。ぼくは顧客の過去を知らないし、未来も知らない。さらにいえば現在示されている住所や連絡先が正しいかどうかも分からない。顧客の立場からすれば、売り手であるぼくの信用の度合いも同じなのだけれど、少なくとも「物」を持っているのは、ぼくの方である。いってしまえば、売り手の方が有利なのである。それはオークションに関わらず、金と物の交換において、顧客がお金を払ってでも欲しいと思う物を持っている側の方が有利なのだ。お金に加えて何か他の力を使うことで売り手を動かすことができるかもしれないが、その力が買い手本人が語る信用で足りるはずがない。
 また取引の終盤、顧客が物を受け取る場合においても、売り手の方が有利である。もし発送中の事故などで壊れてしまっても売り手に責任はない。可能性として売り手が持っている時点で壊れている場合もあるが、それも顧客が受け取ったあとに壊した、または開封するまでに壊れてしまったと言い切ることができてしまう。これはオークション独特の、商品に一定期間の保証がつく販売とは異なる部分である。
 オークションで物を買ってばかりの人は、こういった売り手としての感覚が薄いことが多い。もしオークションをやるとしたら、売り手の立場を経験してみると、お金と物の取引についての基本的な感覚を養うことができるのではないかと思う。