新井素子「イン・ザ・ヘブン」を読んだ。

新井素子の「イン・ザ・ヘブン」という短編集を読んだ。久しぶりに小説らしい小説を読んだ気がした。新井素子は、長編を書くことが多いようで、短編集は珍しいとのこと。ぼくは小説をあまり読んでこなかったし、多くの作家を読んでいるわけではないし。女性作家も数えるほどしか知らないけれど、小説が好きである。小説という形式が好きなのかもしれない。
 
そもそもぼくは、本を読んでもそのことを何も残さない。そのくせして読んだ本のことを読んだことを忘れたとか絶望している。これからはせっかくブログを書いていることだし、本を読んだことを少しずつ書いてみようと思う。
 
「イン・ザ・ヘブン」を読む前は、ベテラン作家の少し古い文体の小説なのかなと思っていたけれど、まったくそんなことはなかった。むしろ小説というのは、年齢や経験が積み上がることで、書くことの幅が広がるのだと感じる。幅広い年代の人間を、造形の振り幅を広く、自然に動かしているように見える。若い作家には若い作家にしか書けないことがあるというのは分かるけど、年を重ねたからといって、若さを失うわけではない。むしろ年を重ねた分、若さを含んだ経験を使うことがでいる。若い子の気持ちがわからない、という感覚で自分を縛ることはないのだろう。
 
本人によるあとがきを読むと、この短編集から少し小説の書き方が新しくなっているようだった。無意識に動く物語が出てくるようになったらしく、今までの小説は意識的に書いていたのだということだった。無意識に動いたり喋ったりする登場人物に、作者自身が驚いたり喜んだり、楽しく小説を書いているのが伝わってくる。